「RPAはもう古いのか」「AIエージェントがすべてを置き換えるのか」。
生成AIの進化とともに、企業の自動化戦略は大きな転換点を迎えています。特に社内ポータルや基幹システムの運用現場では、従来のRPAでは対応しきれない非定型業務や判断業務が増え、より高度な自律型AIへの期待が高まっています。
一方で、RPAは依然として高い正確性と監査適合性を持ち、金融・経理領域などで不可欠な存在であることも事実です。重要なのは「どちらを選ぶか」ではなく、「どう組み合わせるか」という視点です。
本記事では、RPAとAIエージェントの技術的な違いから、日本市場特有の背景、主要ベンダーの戦略転換、具体的な導入事例、そしてハルシネーション対策やガバナンス設計までを体系的に解説します。
AIに強い関心を持つビジネスパーソンや研究者の方に向けて、単なる概念論ではなく、アーキテクチャや市場データに基づく実践的な自動化ロードマップを提示します。
自動化の第2フェーズとは何か:効率化から自律化へのパラダイムシフト
2026年、日本企業の自動化は大きな転換点を迎えています。これまで主流だったのは、RPAを中心とした「効率化」の自動化でした。人の操作をそのまま再現し、定型業務を高速・正確に処理することが目的でした。
しかし現在は、単なる作業代替ではなく、目標を与えると自ら考え、計画し、実行する「自律化」へと進化しています。これが自動化の第2フェーズです。
IDCの2026年予測でも示されている通り、アジア太平洋地域ではエージェント型AIへの投資が急拡大しており、自動化の中心が「ルール」から「判断」へと移りつつあります。
| 観点 | 第1フェーズ(効率化) | 第2フェーズ(自律化) |
|---|---|---|
| 目的 | 作業時間の短縮 | 判断プロセスの代替・高度化 |
| 技術基盤 | RPA(ルールベース) | AIエージェント(LLM+推論) |
| 指示方法 | 手順を詳細に定義 | 目標を提示 |
| 変化対応力 | UI変更に弱い | 環境変化を推論で吸収 |
第1フェーズでは、「If X, then Y」という決定論的ロジックが中心でした。例えば、Excelから基幹システムへの転記、定期レポート生成などです。これは一定の成果を上げましたが、UI変更による停止や保守コストの増大という課題も顕在化しました。
一方、第2フェーズではAIエージェントが中核を担います。トムソン・ロイターの解説によれば、AIエージェントは与えられたゴールをもとに、状況を認識し、必要な手順を自ら生成します。これは単なる自動実行ではなく、「推論ループ」を持つ構造です。
例えば「請求書を処理する」という指示に対し、ファイルを読み取り、社内規定を参照し、例外があれば判断し、エラー時には修正を試みます。手順ではなく目的を起点に動く点が決定的な違いです。
効率化は「人の代わりに動く」こと、自律化は「人の代わりに考えて動く」ことです。
特に日本では、労働人口減少や電子帳簿保存法への対応強化などにより、単純作業だけでなく判断業務の自動化が求められています。経理領域では、表記ゆれや非構造化データの解釈といった曖昧性への対応が不可欠です。ここに従来型RPAの限界がありました。
第2フェーズは、RPAを否定するものではありません。むしろ、自律的に判断するエージェントと、高速に実行するボットの役割分担によって成立します。自動化の本質は「作業削減」から「意思決定の拡張」へと拡張されたのです。
2026年は、AIエージェントが実験的技術から企業基盤へと位置づけを変えた年といえます。自動化はもはや効率化ツールではなく、組織の知的能力を再構築する戦略インフラへと進化しています。
RPAの本質と限界:決定論的アーキテクチャの強みと脆さ

RPAの本質は、徹底した決定論的アーキテクチャにあります。あらかじめ定義されたルールと手順に基づき、同じ入力に対して常に同じ出力を返す――この予測可能性こそが、企業システムにおける最大の価値です。
Thomson Reutersによれば、会計や税務のように監査証跡と再現性が厳しく求められる領域では、RPAのようなルールベース自動化が依然として中核を担っています。処理ロジックが明示的であり、なぜその結果になったのかを説明できる点が評価されているのです。
RPAは「考えない」からこそ、強いのです。
| 観点 | RPAの特性 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| ロジック構造 | If-Then型の明示的ルール | 挙動が完全に予測可能 |
| 再現性 | 常に同一の処理結果 | 監査対応が容易 |
| データ前提 | 構造化データ中心 | 例外処理は事前定義が必要 |
この設計思想は、金融機関の送金処理や基幹システムへの転記業務のように、1円の誤差も許されない業務と極めて相性が良いです。AppianやBlue Prismが示す通り、RPAは「高速かつ正確な実行エンジン」として成熟しています。
しかし同時に、この決定論的構造は脆さも内包しています。RPAは環境を理解しているわけではなく、事前に記述された手順をなぞっているに過ぎません。画面のボタンIDが変更された、項目名が微妙に変わった――それだけで処理は停止します。
2020年代前半、多くの企業が経験したのがいわゆる「保守地獄」です。UI変更のたびにシナリオ修正が発生し、当初の省力化効果が運用コストに相殺される事態が起きました。SS&C Blue Prismのレポートでも、スケール後の保守負荷が課題として挙げられています。
さらに、RPAは基本的に構造化データを前提としています。CSV、データベース、固定フォーマットの帳票などには強い一方で、メール本文や自由記述欄の解釈といった曖昧さを含む処理は不得手です。例外を吸収するには分岐を増やすしかなく、結果としてロジックは複雑化します。
決定論的であることは、同時に「想定外に弱い」という性質でもあります。
つまりRPAは、「変化しない世界」を前提にすれば最強の実行者ですが、「変化が常態化した世界」では脆さが露呈します。環境が安定している限りコスト効率は高いものの、UI変更や業務ルール改定が頻発する領域では、保守工数が指数的に増加する傾向があります。
この強みと限界を正しく理解することが重要です。RPAは万能ではありません。しかし、再現性・監査性・高速性という三位一体の価値は依然として代替困難です。問題は技術の優劣ではなく、「どの業務に、どの前提条件で適用するか」という設計思想にあります。
AIエージェントの技術解剖:LLM・LAM・推論ループの仕組み
AIエージェントの中核を理解するには、LLM・LAM・推論ループという3層構造で捉えることが重要です。RPAが静的なスクリプト実行であるのに対し、AIエージェントは動的な思考プロセスを内包したアーキテクチャを持っています。
MITRIX TechnologyやSS&C Blue Prismの解説によれば、エージェント型システムは「理解」「計画」「実行」「検証」を循環させる構造を備えており、この反復こそが従来型自動化との決定的な違いです。
AIエージェントは単一モデルではなく、「言語理解(LLM)」と「行動実行(LAM)」を推論ループで結びつけた統合システムです。
LLM:意味を解釈する頭脳
LLM(大規模言語モデル)は、自然言語の理解と生成を担います。ユーザーから「A社の請求書を処理して」と指示された際、その意図を分解し、必要なサブタスクへと構造化します。
ここで重要なのは、LLMは決定論ではなく確率論的推論を行う点です。同じ入力でも内部の文脈や履歴に応じて最適と判断される出力を生成します。これにより、曖昧な指示や非構造化データにも対応可能になります。
LAM:デジタル世界で行動する手足
LAM(Large Action Model)は、クリック、入力、スクロールといった具体的操作を学習したモデルです。DOM構造や画面要素を認識し、適切なUI要素を推定します。
RPAが座標やIDに依存するのに対し、LAMは「意味的に正しいボタン」を推論します。ボタン名が「送信」から「Submit」に変わっても、機能的同一性を判断できる点が特徴です。
| 構成要素 | 主な役割 | 技術的特性 |
|---|---|---|
| LLM | 意図理解・計画生成 | 確率論的言語推論 |
| LAM | UI操作・アクション実行 | 環境認識と操作推定 |
| 推論ループ | 計画修正・自己改善 | フィードバック循環 |
推論ループ:エージェントの心臓部
最も本質的なのは推論ループです。AWS Prescriptive GuidanceやAzure Architecture Centerでも示されているように、エージェントは単発実行ではなく、観測→思考→行動→再観測という循環を持ちます。
例えば金額入力時にエラーが出た場合、エージェントはエラーメッセージを再解釈し、「カンマ区切りが原因」と仮説を立て、修正後に再実行します。この自己修正能力が“Self-Healing”の源泉です。
このループ構造があるからこそ、AIエージェントは環境変化や例外に適応できます。一方で、確率的判断に依存するため、ガードレール設計が不可欠になります。
2026年の技術水準では、LLM単体でもLAM単体でも不十分です。意味理解と行動実行を結びつけ、それを継続的に評価・修正する推論ループを備えたとき、初めて「自律型エージェント」と呼べるのです。
確率論と監査適合性:ハルシネーション問題と企業利用の壁

AIエージェントは確率論的に推論する仕組みで動いています。つまり、常に「もっともらしい次の一手」を確率的に選択しているということです。
この性質こそが柔軟性の源泉である一方、企業利用においては大きな壁にもなります。とりわけ問題視されているのが、事実に基づかない出力を生成する「ハルシネーション」です。
企業システムでは、1%の誤りも許容されない場面が存在します。ここに確率論と監査適合性の緊張関係があります。
Thomson Reutersによれば、会計・税務領域では「再現性」と「説明可能性」が最重要要件とされています。RPAは決定論的に同じ入力に同じ出力を返すため、監査証跡との親和性が高いです。
一方、AIエージェントは同じプロンプトでも内部の推論経路が変動する可能性があります。この揺らぎが、外部監査人から見たときの不安材料になります。
監査観点で両者を比較すると、次のような構造的差異があります。
| 観点 | RPA | AIエージェント |
|---|---|---|
| 再現性 | 常に同一 | 条件により変動 |
| 判断根拠 | 事前定義ルール | 確率的推論+参照データ |
| 監査ログ | 操作履歴中心 | 推論過程の記録が必要 |
| リスク | 仕様外停止 | 誤推論・ハルシネーション |
特に問題となるのは、「もっともらしいが誤っている判断」です。例えば存在しない取引先コードを推測補完して登録するような挙動は、業務効率の観点では合理的でも、内部統制上は重大な欠陥となります。
IDCの2026年予測でも、アジア太平洋地域の企業がAgentic AI導入に慎重姿勢を示す最大要因として「ガバナンスと説明責任」が挙げられています。
では、この壁は越えられないのでしょうか。実務では「確率論を制御する設計」が進んでいます。
第一に、RAGによるグラウンディングです。社内規程やマスターデータのみに知識源を限定し、回答の根拠を明示させます。日本ディープラーニング協会の資料でも、外部知識の制限がハルシネーション抑制に有効とされています。
第二に、決定論的ガードレールの併設です。AIが生成したアクションを、従来型ロジックで検証してから実行します。たとえば金額上限チェックや登録番号の形式検証を機械的に行う仕組みです。
第三に、推論ログの保存です。Chain of Thoughtそのものを公開するのではなく、「参照データ」「判断条件」「確信度」を構造化して保存することで、監査説明に耐える証跡を残します。
重要なのは、AIを信じることではなく、AIを検証可能な状態で運用することです。
確率論的エンジンをそのまま業務に接続するのではなく、決定論的フレームで囲い込む。この二層構造こそが、企業利用の現実解です。
2026年の企業現場で問われているのは、精度の高さではなく「統制下に置けるかどうか」です。ハルシネーション問題は技術課題であると同時に、ガバナンス設計の問題でもあります。
確率と監査の橋渡しができた企業だけが、AIエージェントを基幹業務に組み込める段階に入っています。
なぜ日本企業でエージェント化が進むのか:労働人口減少と技能継承の危機
日本企業でエージェント化が急速に進んでいる最大の背景は、労働人口の構造的減少と技能継承の断絶リスクです。これは一時的な人手不足ではなく、企業の存続を左右する中長期的な経営課題として顕在化しています。
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」を越えた現在、レガシー刷新と並行して進むのが、熟練人材の大量退職への対応です。団塊ジュニア世代が50代半ばに差し掛かり、現場を支えてきた中核層の引退が現実味を帯びています。
問題は人数だけではありません。失われつつあるのは、マニュアル化されていない判断力、いわば暗黙知です。
| 課題 | 従来の対応 | 限界 |
|---|---|---|
| 熟練者の退職 | OJTによる口伝 | 時間不足・属人化 |
| 例外処理の判断 | ベテランが都度対応 | 再現性がない |
| 非定型業務 | 人海戦術 | 採用難で維持困難 |
例えば製造業の調達部門では、納期遅延時の代替サプライヤー選定や条件再交渉は経験則に依存してきました。こうした業務はルール化が難しく、RPAでは代替できませんでした。
しかしAIエージェントは、過去のメール履歴や対応ログといった非構造化データを参照しながら、文脈に基づく判断を行えます。MITRIXやBlue Prismの解説でも示されている通り、目標駆動型で計画・実行・修正を繰り返す構造を持つ点が決定的に異なります。
つまりエージェント化とは、省人化ではなく「判断プロセスのデジタル化」なのです。
さらに、電子帳簿保存法やインボイス制度の定着により、経理領域では検索要件や監査証跡の厳格化が進みました。TOKIUMの解説によれば、単なる入力自動化ではなく、なぜその処理を行ったのかという説明可能性が求められています。
ベテランが頭の中で行っていた「これは例外だが妥当」という判断を、ログとして残し再現可能にする必要があります。推論過程を保存できるエージェント型アーキテクチャは、この要請に適合します。
IDCのアジア太平洋日本向け予測でも、エージェント型AIは実験段階から基幹インフラへ移行すると指摘されています。その背景にあるのは技術革新そのものよりも、労働構造の変化です。
人が減る中で業務量は減らない。しかも法規制は厳格化する。この三重苦の中で、目標を理解し自律的に判断できるデジタル社員の必要性が高まっています。
エージェント化が進む理由は単純です。労働人口減少という不可逆的な現実に対し、判断能力を持つシステム以外に持続的な解が存在しないからです。
電子帳簿保存法・インボイス制度が突きつける自動化要件の高度化
電子帳簿保存法とインボイス制度の完全定着は、企業の経理・財務プロセスに対し、単なるデジタル化ではなく「監査に耐えうる自動化」を要求しています。
これまでのRPA中心の効率化は、入力作業の省力化には有効でしたが、法制度が求める検索性・真正性・トレーサビリティまでを網羅するには限界が見え始めています。
とりわけ2024年以降、猶予期間が終了した電子帳簿保存法への対応は、業務設計そのものの再構築を迫るものとなりました。
| 制度要件 | 求められる水準 | 自動化への影響 |
|---|---|---|
| 検索要件 | 日付・金額・取引先で即時検索可能 | メタデータの正確な付与が必須 |
| 真実性確保 | 改ざん防止措置と履歴保存 | 操作理由まで含むログ管理が必要 |
| 適格請求書管理 | 登録番号の有効性確認 | 外部照会と照合精度の向上が不可欠 |
例えばインボイス制度では、適格請求書発行事業者の登録番号の確認が必須となります。RPAで国税庁サイトへの照会を自動化することは可能ですが、問題はその前段階です。
請求書画像から番号を抽出する際、表記ゆれや印字不鮮明があれば誤認識が発生します。ここで誤った番号をそのまま登録すれば、形式的には自動化できても、法令順守の観点では重大なリスクになります。
TOKIUMの解説でも指摘されている通り、経理自動化は「入力自動化」から「適格性判断の自動化」へと重心が移っています。
さらに電子帳簿保存法が要求する検索要件では、(株)と株式会社の違いといった表記ゆれを吸収しなければ、実務上の検索性は担保されません。
従来型RPAは文字列の完全一致を前提とするため、ここに弱点があります。結果として、現場では例外処理が増え、かえって手作業が残るという逆転現象が起きてきました。
制度対応が高度化するほど、「判断」と「文脈理解」を含む自動化が不可欠になります。
特に重要なのが監査ログの質です。操作履歴が残っているだけでは不十分で、「なぜその修正を行ったのか」という理由まで説明可能であることが求められます。
AIエージェント型のアプローチでは、推論プロセスをログとして保存する設計が可能になり、判断理由の透明性を確保できます。これは内部統制や外部監査の観点からも大きな意味を持ちます。
経済産業省がDX推進の文脈で強調してきた「データの真正性と活用可能性」という観点からも、制度対応は単なる義務ではなく、経営基盤の高度化そのものを意味します。
電子帳簿保存法とインボイス制度は、企業に対し「とりあえず動く自動化」からの脱却を迫っています。
正確で、説明可能で、変化に強い自動化基盤を構築できるかどうかが、2026年以降の競争力を左右します。
制度対応はコストではなく、自律的な業務基盤へ進化するためのリトマス試験紙になっているのです。
レガシーシステムとAPI不在環境におけるGUI自動化の現実解
日本企業の多くはいまも、APIが存在しないレガシーな基幹システムや、長年改修を重ねてきた社内ポータルを抱えています。SaaS同士をAPIで連携させる理想論だけでは前に進めない現場において、現実的な選択肢となるのがGUI自動化です。
経済産業省が提起した「2025年の崖」以降も、オンプレミスとクラウドが混在するハイブリッド環境は解消していません。IDCの2026年予測でも、アジア太平洋地域では既存資産を活かしながらAIを重ねるアプローチが主流になると指摘されています。
従来のRPAは、画面上の座標やHTML要素に依存するため、UI変更に弱いという課題がありました。ボタン名の微修正やレイアウト変更だけで停止し、保守コストが膨らむ「脆さ」は多くの企業が経験しています。
一方、LLMやLAMを活用したAIエージェントは、画面全体を視覚的・文脈的に理解し、「送信に相当するボタンはどれか」を推論できます。MITRIXやBlue Prismの解説でも示されている通り、これは単なるクリック自動化ではなく、環境認識を伴う操作です。
| 観点 | 従来型RPA | AIエージェント型GUI自動化 |
|---|---|---|
| UI変更耐性 | 低い(ID・座標依存) | 相対的に高い(意味理解) |
| 非構造化データ対応 | 限定的(外部OCR依存) | 自然言語・画像を統合理解 |
| 例外処理 | 事前定義のみ | 推論により動的対応 |
たとえばAPIのない経費精算システムでも、エージェントが領収書画像を読み取り、画面遷移を理解しながら入力を完了させることが可能です。さらにエラー表示が出た場合には、その文言を解釈して再入力を試みる自己修復的な挙動も期待できます。
Thomson Reutersの分析でも、RPAが強いのは決定論的処理であり、判断を伴う領域ではAIエージェントとの組み合わせが有効だと整理されています。API不在環境では、このハイブリッド発想がとりわけ重要です。
重要なのは、GUI自動化を「暫定的な回避策」と捉えないことです。API化が将来的に進むとしても、現実の業務は今日も動いています。レガシー環境を前提に、AIエージェントを上位レイヤーに配置し、必要に応じてRPAを実行部隊として使う設計こそが、2026年時点での最適解に近いアプローチです。
レガシーを否定するのではなく、AIで包摂する。この発想転換が、API不在という制約を競争優位に変える鍵になります。
ハイブリッド・オーケストレーション:RPAを筋肉、AIを頭脳にする設計思想
ハイブリッド・オーケストレーションとは、RPAとAIエージェントを単に連携させるのではなく、役割を明確に分離したうえで統合設計する思想を指します。
2026年の先進企業では、RPAを「筋肉」、AIエージェントを「頭脳」と位置づけるアーキテクチャが主流になっています。
これは比喩ではなく、コスト構造・信頼性・拡張性を踏まえた合理的な分業モデルです。
| 役割 | AIエージェント(頭脳) | RPA(筋肉) |
|---|---|---|
| 主機能 | 目標理解・計画立案・例外判断 | 定型処理の高速実行 |
| 得意領域 | 非構造化データ・曖昧な指示 | 構造化データ・大量処理 |
| コスト特性 | 推論ごとの従量課金 | 固定ライセンス中心 |
たとえば経費精算プロセスでは、AIエージェントが領収書画像を解析し、社内規定と照合し、申請可否を判断します。
その後、確定したデータのみをRPAが基幹システムへ登録します。
判断と実行を分離することで、精度と速度の両立が可能になります。
AWSのAgentic AI設計パターンやMicrosoftのエージェント設計ガイドでも示されている通り、エージェントは「Supervisor」として複数ツールを統括する設計が推奨されています。
このときRPAはエージェントの“ツール”として呼び出され、Function Callingのように実行されます。
つまりRPAは独立した主役ではなく、頭脳に従う実働部隊として再定義されます。
さらに、AIエージェントの出力をそのまま実行させない設計も不可欠です。
推論結果に対してルールベースのガードレールを設け、金額上限やブラックリスト照合をRPA側で検証します。
この二層構造により、ハルシネーションリスクを実務レベルで抑制できます。
IDCの2026年予測でも、アジア太平洋地域ではエージェント主導の自動化基盤が急速に拡大すると示されています。
しかし実際の現場では、既存RPA資産をどう活かすかがROIを左右します。
ハイブリッド・オーケストレーションは、既存資産を無駄にせず進化させるための戦略的アプローチです。
RPAを捨てるのではなく、筋肉として鍛え直す。
AIを魔法の存在として扱うのではなく、頭脳として統治する。
この設計思想こそが、2026年の自動化第2フェーズにおける競争優位の源泉になります。
Supervisor-WorkerやTool-Useなど主要アーキテクチャパターン
AIエージェント時代の自動化を支える中核は、Supervisor-WorkerやTool-Useといった主要アーキテクチャパターンにあります。これらは単なる実装テクニックではなく、自律性と統制を両立させる設計思想そのものです。
MicrosoftのAzure Architecture CenterやAWS Prescriptive Guidanceでも示されているように、エージェントは単体で完結するのではなく、複数コンポーネントを束ねる「オーケストレーション構造」として設計されることが前提になっています。
Supervisor-Workerパターン
Supervisor-Workerは、上位のAIエージェントが全体計画と監督を担い、下位の実行モジュールが個別タスクを処理する構造です。HCLTechやBlue Prismも、RPA再構築の中核としてこの分離を推奨しています。
| 役割 | 機能 | 特徴 |
|---|---|---|
| Supervisor | 目標分解・進捗監視・再計画 | 推論中心・例外判断 |
| Worker | 定型処理・外部操作 | 高速・決定論的 |
この構造の本質は、推論と実行を意図的に分離することにあります。推論部分は確率的で柔軟ですが、実行部分は決定論的に保つことで、監査性と再現性を確保できます。
例えば経費精算では、Supervisorが領収書内容を解釈し入力計画を立案し、Workerが基幹システムへ確実に登録します。エラー発生時はSupervisorが原因を推論し再指示します。
Tool-Useパターン
Tool-Useは、エージェントが外部機能を「ツール」として呼び出す構造です。これはFunction Callingとも呼ばれ、近年のエージェント設計の標準になっています。
ツールには以下のようなものが含まれます。
・RPAスクリプト
・データベース検索API
・社内ポータル操作モジュール
・OCRや外部SaaS連携機能
重要なのは、エージェント自身がすべてを実行しないことです。計画はAIが担い、実処理は専用ツールに委譲します。これにより推論コストを抑えつつ、既存資産を最大活用できます。
AWSのエージェント設計指針では、ツールは明確な入力・出力仕様を持つべきだとされています。曖昧なインターフェースは、誤った呼び出しやハルシネーションの温床になるからです。
2026年の実装現場では、単一エージェントよりも「多層オーケストレーション」が主流になっています。すなわち、Supervisorが複数のWorkerと複数ツールを動的に選択する構造です。
この設計こそが、自律性とガバナンスを両立させる鍵になります。高度化する業務環境において、アーキテクチャ選択そのものが競争優位を左右する時代に入っています。
経費精算プロセスに見るRPA×AIエージェント連携の具体フロー
経費精算は、RPAとAIエージェントの役割分担が最も分かりやすく可視化される業務です。単なる入力自動化ではなく、非構造化データの解釈、法令要件の確認、例外対応までを含むため、両者の連携設計が成果を左右します。
Thomson Reutersによれば、会計領域では依然として決定論的な自動化の信頼性が重視される一方、例外処理の多さがボトルネックになっています。このギャップを埋めるのが、AIエージェントを司令塔に据えたハイブリッド構成です。
| 工程 | 主担当 | 技術的ポイント |
|---|---|---|
| ①領収書受領 | AIエージェント | OCR+文脈理解で項目抽出 |
| ②規程照合 | AIエージェント | RAGで社内規程検索・推論 |
| ③データ確定 | AI+ガードレール | 金額上限・勘定科目チェック |
| ④システム入力 | RPA | 基幹システムへ高速登録 |
| ⑤承認通知 | RPA | ワークフロー自動起票 |
まず社員が社内ポータルに領収書画像をアップロードすると、AIエージェントが内容を解析します。日付、金額、取引先名を抽出するだけでなく、「会食費だが参加者記載がない」といった文脈的不足も検出します。
次にRAGを用いて社内経費規程やインボイス要件を参照し、登録番号の有効性や科目妥当性を推論します。日本ディープラーニング協会が指摘するように、グラウンディングされた推論はハルシネーション抑制の中核です。
重要なのは、AIの判断結果をそのまま実行せず、決定論的なチェック層を挟むことです。例えば「交際費は上限2万円まで」というルールはRPA的ロジックで強制検証します。
データがJSON形式で確定すると、ここで初めてRPAが起動します。UI変更に弱いRPAも、入力データが整形済みであればエラー率は大幅に低下します。AWSのAgenticパターンでも示されるSupervisor–Worker型に近い構造です。
万一、基幹システム側でフォーマットエラーが発生した場合、エージェントがログを解析し、原因を推論して再実行計画を立てます。これにより、従来は人手で行っていた復旧作業が自律化されます。
さらに、承認フローではエージェントが確信度を算出し、閾値以下の場合のみHuman-in-the-Loopで上長に確認を求めます。高確信案件はRPAが自動起票し、承認依頼通知まで完了します。
この連携フローの本質は、非構造化→構造化への変換をAIが担い、構造化データの確実実行をRPAが担う分業にあります。両者を直列ではなく、循環的に接続することで、経費精算は「自動化」から「自律化」へ進化します。
結果として、入力ミス削減だけでなく、規程逸脱の早期検知や監査ログの高度化も実現できます。推論過程をログ化できる点は、従来型RPAでは困難だった監査説明責任を補完します。
経費精算という日常業務の中にこそ、RPAとAIエージェントの最適な協働モデルが凝縮されています。
市場データで読む自動化トレンド:RPA市場とAgentic AIの成長曲線
自動化市場の現在地を把握するには、RPAの成熟とAgentic AIの急伸という二つの成長曲線を同時に見る必要があります。
株式会社MM総研の調査や各種市場レポートによれば、日本のRPA市場は依然として拡大基調にありますが、その伸び率は導入初期の爆発的成長と比べると緩やかになっています。
一方で、IDCが示す2026年の予測では、アジア太平洋・日本地域においてエージェント型AIへの投資が急増し、企業IT予算の中核に位置づけられつつあると分析されています。
| 領域 | 市場の特徴(2026年時点) | 成長ドライバー |
|---|---|---|
| RPA | 導入は広範、成長率は安定化 | 既存業務の効率化・保守更新需要 |
| Agentic AI | 市場は拡大初期、成長率は高水準 | 判断業務の自動化・非構造化データ対応 |
GlobeNewswireの市場予測では、グローバルRPA市場は2026年以降も大幅な拡大が見込まれていますが、その牽引役として「AI統合型自動化」が明確に挙げられています。
つまり、RPA単体の市場というよりも、AI機能を内包したハイブリッド型プラットフォームへと重心が移動しているのです。
市場の主戦場は「作業の代替」から「意思決定の代替」へと移行しています。
UiPathの2026年トレンドレポートでも、企業の関心が単純なボット増設から、エージェントによる業務全体の再設計へと変化していることが示唆されています。
特に注目すべきは、経理AIやカスタマーサポート領域など、非構造化データを扱う分野での投資増加です。
従来RPAでは周辺技術との連携が必要だった領域に、最初から推論エンジンを組み込む設計が主流になりつつあります。
SS&C Blue PrismやAutomation Anywhereなど主要ベンダーも、従来型RPAの強化だけでなく、Agentic Process Automationという概念を前面に打ち出しています。
これは単なるプロダクト戦略ではなく、市場ニーズの変化を反映したものです。
企業が求めているのは、より多くのボットではなく、より少ない人数でより高度な意思決定を支える自律的システムだからです。
成長曲線を俯瞰すると、RPAは安定的な基盤市場として横軸方向に広がり、Agentic AIは急勾配で立ち上がるS字カーブの初期上昇局面にあります。
2026年は、その二つの曲線が交差し始める転換点です。
自動化市場の未来は、RPAの終焉ではなく、Agentic AIとの融合による再定義にあります。
UiPath・NTTデータ・ServiceNowの戦略転換と製品進化
自動化市場の主役が「RPA単体」から「エージェント統合型プラットフォーム」へと移行する中、UiPath・NTTデータ・ServiceNowは明確な戦略転換を進めています。共通するキーワードは、単なる作業代行から業務全体を設計・判断できる基盤への進化です。
| 企業 | 従来の強み | 2026年の戦略軸 |
|---|---|---|
| UiPath | RPAプラットフォーム | Agentic Automation統合 |
| NTTデータ | WinActor・SI力 | Smart AI Agent Ecosystem |
| ServiceNow | ITSM基盤 | Now Assistによる生成AI統合 |
UiPathは「Business Automation Platform」へと再定義し、Autopilot機能を実装しています。自然言語からワークフローを生成する機能や、Intelligent Document Processingを標準化することで、RPAとAIエージェントの境界を意図的に曖昧にしています。UiPathの2026年トレンドレポートでも、エージェント主導の自動化が企業競争力を左右すると示されています。
NTTデータは、国産RPAであるWinActorに生成AI連携を強化し、シナリオ作成の自動化を推進しています。さらにForesight Report 2026で示された通り、IOWN構想と連動したSmart AI Agent Ecosystemを掲げ、企業間・業界横断でエージェントを連携させる基盤づくりを進めています。これは社内ポータル最適化にとどまらず、インフラレイヤーでAIエージェントを標準化する構想です。
ServiceNowはITSMの強固なワークフロー基盤に生成AI機能「Now Assist」を統合しました。問い合わせ要約、ナレッジ検索、ワークフロー自動実行を同一UIで完結させる設計により、ポータル体験そのものを再設計しています。従来のチケット駆動型運用から、文脈理解型オーケストレーションへと進化している点が特徴です。
IDCのアジア太平洋地域予測でも、2026年以降はエージェント機能を内包しない自動化基盤は競争力を失う可能性があると指摘されています。各社の動きは、単なる機能追加ではなく、プロダクトの思想転換そのものです。
結果として市場は「RPAベンダー」と「AIベンダー」の区分が消えつつあります。重要なのはボットの数ではなく、どれだけ自律的に判断し、既存資産と統合できるかです。2026年は、製品進化が戦略転換と完全に一致した転換点といえます。
国内導入事例に学ぶ:顧客対応・全社AI基盤のリアル
国内企業におけるAIエージェント導入は、実証実験の段階を越え、顧客接点や全社基盤にまで広がっています。特に注目すべきは、単一業務の効率化ではなく、業務プロセスそのものを再設計する視点で成果を出している点です。
ここでは、顧客対応と全社AI基盤という二つの切り口から、そのリアルを見ていきます。
顧客対応:CRM連携による“実行型”自動化
アソビュー株式会社は、AIエージェント「KARAKURI」を活用し、カスタマーサポートを高度化しました。同社の取り組みの本質は、FAQ自動応答ではなく、CRMと個人認証を組み合わせた手続き実行型オートメーションにあります。
| 項目 | 従来 | 導入後 |
|---|---|---|
| 問い合わせ対応 | メール・電話中心 | AIチャット+自動処理 |
| 予約変更・キャンセル | 有人確認後に手動処理 | 認証後に自動実行 |
| 成果 | 人的負荷が高い | メール55%削減、電話70%削減 |
公開事例によれば、メール対応を55%、電話対応を70%削減しています。重要なのは、AIが回答するだけでなく、バックエンド処理まで完結させている点です。これはRPA的な実行機能とエージェントの判断能力を組み合わせた好例といえます。
全社AI基盤:社員が“使う側”になる設計
一方、日立ソリューションズは全社員が利用可能な生成AI基盤を整備し、「Alli LLM App Market」を採用しました。特徴は、現場主導でAIアプリを作成できる仕組みを提供していることです。
オンプレミスやプライベートクラウド環境を前提にし、機密情報を外部に出さない設計を徹底しています。日本ディープラーニング協会も指摘するように、企業利用ではガバナンスとデータ管理が成否を分けますが、この事例はその要件を踏まえた実装です。
営業支援、提案書ドラフト作成、社内ナレッジ検索など、用途は部門横断的です。中央集権型ではなく、プラットフォームを整備し、各部門がエージェントを活用・拡張できるモデルは、今後の標準形になりつつあります。
顧客対応の高度化と、全社横断のAI基盤整備。この二つを両立させる企業が、2026年以降の競争優位を確立していくことは間違いありません。
導入ロードマップ:Copilot型から完全自律型への段階的アプローチ
AIエージェント導入で最も重要なのは、いきなり完全自律を目指さないことです。2026年の先進企業が採用しているのは、Copilot型から段階的に進化させるロードマップです。
IDCの2026年予測でも、アジア太平洋地域の企業は「実験的導入」から「業務組み込み」へと移行する過程で、段階的アプローチを取る企業ほど成果が高いと示唆されています。
導入は大きく3段階に整理できます。
| フェーズ | AIの役割 | 人間の関与 |
|---|---|---|
| Copilot型 | 提案・下書き生成 | 最終判断・実行 |
| 限定自律型 | 定型判断+RPA連携実行 | 例外承認 |
| 完全自律型 | 計画・実行・自己修正 | 監督・監査 |
第1段階のCopilot型では、AIはあくまで補助者です。経費精算の入力補助や問い合わせ回答案の生成などを担いますが、送信ボタンは人間が押します。この期間は精度検証とプロンプト設計の最適化が目的です。日本ディープラーニング協会が指摘するように、グラウンディング設計を初期段階から組み込むことが安全性確保の鍵になります。
第2段階では、限定的に実行権限を委譲します。例えば交通費の上限内申請や定型的なパスワードリセットなど、リスクが低くルールが明確な業務です。ここではAIが判断し、RPAが実行する構造を取ることで、推論コストを抑えながら自律性を拡張できます。
第3段階が完全自律型です。AIが複数システムを横断し、エラー時には自己修正まで行います。ただし重要なのは、人間が不要になるのではなく役割が変わる点です。監督、監査、ポリシー設計が中心になります。AWSやAzureのアーキテクチャガイドでも、最終的にはHuman-in-the-Loopを「例外監督型」に進化させる設計が推奨されています。
成功企業の共通点は、技術導入順ではなく「業務リスク順」に自律化を進めていることです。低リスク・高頻度業務から着手し、信頼スコアとログ監査体制を整えながら拡張します。
Copilotから完全自律型への道は一直線ではありません。精度、コスト、ガバナンスのバランスを取りながら、段階的に「決定権」を移譲していく設計こそが、2026年型自動化戦略の核心です。
TCOとROIの再設計:トークン課金時代のコスト最適化
トークン課金モデルの普及により、自動化の経済合理性は根本から再定義されています。従来のRPAはライセンス費と保守人件費が中心でしたが、AIエージェントは「推論1回ごと」にコストが発生します。そのため、TCOとROIの算出ロジックそのものを見直す必要があります。
とりわけ重要なのは、固定費中心の世界から、変動費中心の世界へ移行したという点です。これは単なる価格体系の違いではなく、業務設計の思想転換を意味します。
| 項目 | 従来RPA | AIエージェント |
|---|---|---|
| 主な費用構造 | 年間ライセンス+保守 | トークン課金+計算資源 |
| コスト変動要因 | ボット数・開発工数 | 推論回数・入力出力量 |
| 最適化の焦点 | 停止削減・保守効率 | 推論削減・プロンプト設計 |
例えば、単純なデータ転記をすべてAIエージェントに任せると、推論回数が膨大になり、トークン消費が指数的に増加します。Thomson Reutersの分析でも、定型処理をエージェントで代替した場合、業務内容によっては従来自動化よりコスト効率が悪化する可能性が指摘されています。
したがってROI最大化の鍵は、「判断だけをAIに任せる」設計にあります。非構造化データの解釈や例外処理といった高付加価値領域に限定して推論を使い、確定処理はRPAやAPIに委譲する構造が合理的です。
またTCOを再計算する際は、直接費だけでなく「停止リスクの削減価値」も加味すべきです。UiPathやBlue Prismのレポートが示すように、UI変更によるRPA停止は見えない保守工数を生み続けてきました。環境適応力を持つエージェントは、この保守負債を圧縮できる可能性があります。
具体的には、1件の経費精算に何回の推論が発生しているのか、どのステップが最もトークンを消費しているのかを分解します。長文プロンプトの削減、不要な再推論の排除、キャッシュ活用などにより、推論回数を3割以上圧縮できるケースもあります。
さらに、Human-in-the-Loopを戦略的に組み込むことで、低確信度案件のみ人間が介入する設計にすれば、無駄な再推論を抑制できます。これは単なるリスク対策ではなく、コスト最適化手法でもあります。
トークン課金時代のTCOとは、単なるIT費用の合算ではありません。業務設計、推論設計、権限設計まで含めた「アーキテクチャ全体の経済性」を問う概念へと進化しています。ここを定量的に設計できる企業だけが、エージェント時代の真のROIを手にします。
RAGとガードレール設計:企業におけるAIエージェント運用ガバナンス
AIエージェントを企業基幹業務に組み込むうえで、最大の論点は「精度」ではなく「統制」です。とりわけ社内ポータルや基幹システムを横断して動くエージェントには、RAGとガードレールを中核とした運用ガバナンス設計が不可欠です。
JDLAの公開資料でも指摘されている通り、生成AIの業務活用ではハルシネーション対策と説明可能性の確保が前提条件とされています。企業内で求められるのは、自由度の高い推論と、監査可能な制御の両立です。
RAGによるグラウンディング設計
RAGは、社内規程・業務マニュアル・過去ログなどの一次情報を検索し、その結果のみを根拠に生成させる仕組みです。AIの「知識」を閉域データに制限することで、誤情報生成の確率を大幅に抑制できます。
例えば経費精算エージェントであれば、就業規則や旅費規程をベクトル検索し、該当条文を参照したうえで判断理由を提示させます。これにより、単なる自動承認ではなく「規程第◯条に基づく判断」という監査可能な出力が実現します。
| 設計要素 | 目的 | ガバナンス効果 |
|---|---|---|
| 社内文書限定インデックス | 外部知識の遮断 | 情報漏えい・誤情報防止 |
| 根拠提示の強制 | 判断理由の明示 | 監査対応強化 |
| 更新自動同期 | 規程改定への追随 | 陳腐化リスク低減 |
決定論的ガードレールの実装
RAGだけでは十分ではありません。最終アクション直前にルールベースの決定論的チェック層を挟むことが重要です。これはRPA的ロジックに近く、金額上限、承認権限、ブラックリスト照合などを機械的に検証します。
AWSやMicrosoftのアーキテクチャガイドでも、エージェント実行前後に検証レイヤーを設けるパターンが推奨されています。確率的推論の出口に決定論的制御を置く設計が、実務では最も現実的です。
さらに、操作ログだけでなく推論過程や参照文書IDを保存することで、後日「なぜその判断をしたのか」を再現できます。これは従来RPAでは困難だった説明責任の強化につながります。
AIエージェント運用の本質は、自由度を上げることではなく、制御可能な自律性を設計することにあります。RAGとガードレールを統合した多層防御モデルこそが、企業におけるAI活用を持続可能な基盤へと昇華させます。
参考文献
- Thomson Reuters:AI agents versus RPA: A guide for accountants
- MITRIX Technology:AI agents vs RPA: what’s next in automation?
- IDC:Charting the agentic future: IDC 2026 predictions for Asia/Pacific Japan
- 株式会社MM総研:経理AI市場動向調査(2025年版)
- UiPath:UiPath 2026 AI and Agentic Automation Trends Report
- NTT DATA:NTT DATA Foresight Report 2026 Reveals Six Trends Shaping the Future of Technology Innovation
- カラクリ株式会社:【成果事例】CRM連携と個人認証で自動化領域を拡大!KARAKURIによるCSのマルチチャネル化でメールは55%、電話は70%削減
